「どうかしましたか?皆さんを待たせてしまっているのでは?急がないと…」
「駄目です。お身体、やはり無理がございます。こちらへおいでください」
露李は首を振った。
「これは私に力がないからです。だから耐えられないんです、きっと。たぶん海松さんや他の子なら大丈夫なんだと思います」
だから自業自得。
そう言って笑う。
海松の目に涙が溜まった。
「いいえっ!未琴さまの鎖の記憶の術をかけられるなど!生きていられるのが素晴らしいくらいです」
生きていられるのが、素晴らしい?
言葉を反芻させて、また露李は弱々しく微笑んだ。
お母様は私が死ぬことになっても良いと考えたのですか。
そうですね、お母様。
心の中で問いかける。
「私が泣くなんて、申し訳ありません…さあ、私の部屋へ」
言われるがままに途中の部屋に入る。
「海松さん?」
「私の力では足りませんが…」
海松がそう言いながら露李に手をかざす。
「治癒」
唱えると同時に海松から緑の光が飛び出し、露李を包んだ。
ふわりと温かいものが身体の中を流れる。
体の痛みや重みが消えていく。
「どうでしょう…か」
恐る恐る海松が露李に尋ねる。
体は僅かな怠さを残すだけまでに回復していた。
「とても楽になったわ、ありがとう」
二人で笑い合う。
「それでは、ご案内致します」
海松に着いていきながら、露李は表情を曇らせた。
姫様と敬われながらも、力を持っていない。
風花姫という立場にある無力な露李は、他の者にとっては違和感でしかないはずなのに。
海松は自分を気遣ってくれる。
後ろ姿さえ力に満ち溢れているような気がする。
露李はその申し訳なさと不甲斐なさ、悲しみや妬みを抑え込むように胸を押さえた。


