「何してんだ露李!早く逃げろっつっただろうが!」
理津が睡蓮と戦いながら叫んできた。
「よそ見してていいのか水鳥ぃ?」
楽しそうな声とともに赤紫の光が理津を縛った。
「くっ…!!」
「落雷」
「ぐあああっ!!」
理津に巻き付いた光が体を痺れさせる。
「理津ーーっ!!」
「露李っ…」
「自分よりお姫様が気がかりか?優雅なこったなぁ、水鳥。にしても愛されてんなぁ、姫様よぉ」
睡蓮がゆらりと露李に一歩近づいた。
「こいつに近づくんじゃねぇ!!」
理津が腕を振ると、露李と睡蓮の前に液状の透明な壁ができた。
「うっ」
もろに壁にぶつかった睡蓮。
「やめろ、人の記憶利用するとか、悪趣味なっ…奴だな、」
どうやら睡蓮の過去を呼び覚ましているらしい。
辺りを見回す。
文月が宵菊の足下に陣を出現させ、木の蔓で拘束しようとするも───。
「お子さまねぇボク?」
その一言で、
「うっ!?」
宵菊に向けたはずの蔓が文月を襲った。
ぎりぎりと身体を締め付ける。
「硬化!戒めの鎖となれ!」
静を呪の鎖を纏い、彼が唱える度にそれが増えていく。
「迎撃!」
秋雨を捕らえようとするが、
「愚かだ」
その一言で阻まれる。
「知恩殿と言ったか、それでは攻撃とは言えない。こうやるものだ───業火」
呪が静に飛んだ。
「あああああ!!」
「身を焼かれるような苦痛を与えてこそ攻撃だ」
「静くん、文月先輩っ!!」
「こっち来ちゃダメだよ、巻き込まれて死にたいわけ!?」
咄嗟に一歩踏み出した露李を文月が叱りつける。
地獄絵図。まさにそのものだ。
「がはっ…疾風!!露李を逃がすぞ!!」
結が叫んだ。
片手で結界を張る。
わずかながらそれで時間を稼ぐようだ。
今度ばかりは嫌ですなどと言えない。
明らかに足手まといでしかない。
「結先輩!!」
結は口を押さえるが、見てしまった。
ビチャビチャと指の隙間から血が滴り落ちる。
「これくらいどうってことねぇ!」
「でもっ…」
「いいから黙って俺の言うこと聞いとけ!この俺様が保証してやる、大丈夫だ!」
「露李、俺たちに命令しろ」
突然、疾風が露李に言った。
「どうしてほしい」
どうしてなんて、そんなの。
「帰ってきて、必ず。帰って明日も皆でお昼ごはん食べる」
結が小さく笑った。
「何だお前そんなんでいいのか?もっとこう勝て!とか
あるだろ」
「仕方ないっすよ、それでこそ俺達の姫様です」
「それもそうだな。──いいか?露李」
「結、先輩」
結はひび割れてきた結界を見て背中を向けたままだ。
「無事に逃げたら夕食と、俺が毎晩飲むはちみつ生姜湯作って待ってろ。お前の料理とエプロン姿も見てみたいと、前々から思ってたんだ」
結はそう言って、露李を一瞬振り返った。
「またな」
結は少し寂しそうに笑い、結界の割れ目にいる敵に向かって竜巻を投げつけた。
疾風が地面に拳を叩きつける。
轟音が響くと同時に、露李は駆け出した。


