疾風が紅い炎を手に宿し、星月夜を直視する。
宵菊は文月の前に、結は水無月の前に。
理津は睡蓮、静は秋雨。
「うおおおお!!」
疾風が咆哮と共に星月夜に殴りかかる。
以前、耳にしたことが蘇る。
『疾風は打撃が主な攻撃方法なんだよ。俺は風を操るし、文月は周りにあるものをイメージ通りに具現化する。理津は幻術だし、静は言葉にその名の通りの効力を与えられる』
いつか結が教えてくれたのだ。
皆のことを知りたい、と口に出したときだった。
今思えば力について知っているのはそれだけだ。
我に宿りし力、今目覚めよ───。
頭の中で強く念じても、反応するのはポケットに入った札のみ。
私がしなくちゃいけないこと。守ること。
胸の中で繰り返すが、至近距離で展開される戦いに何か変わった様子は無かった。
露李の目の前で、地面に亀裂が走った。
ものすごい衝撃と息もできないような突風に見舞われる。
砂埃がもうもうと立ち込める中、人影が立ち上がった。
疾風だ。
「くそっ、あのハチマキ!!」
「疾風!大丈夫なの!?」
考えるより先に言葉が出た。
「これくらいでへたばってちゃ様ぁねぇよ。なぁお姫様」
星、月夜。
砂煙の中から的確に露李の居場所を定め、笑いかけてくる。
並々ならぬ威圧感に背筋が凍った。
星月夜は再び疾風の前に立ち、拳を振りかざした。
疾風も炎を宿した拳を構える。
「ぐはっ!!─こんの、化けもんがっ…」
「疾風っ!!」
あまりの動きの速さ。
疾風でさえも鳩尾にまともに拳を食らった。
「化け物?それなら俺もお前も変わらないではないか。半妖のお前と。ああだがしかし、お前の力任せの拳と俺の風圧付きの拳では格が違ったな」
「説明御苦労様だな、空いてんぞ!!」
疾風がまた立ち上がり、星月夜のこめかみに拳を叩き込む。
不意を突かれたのか星月夜の顔が少し歪んだ。
「ほう、さすがだな朱雀。───生温い」
轟音がして、爆発が起き、また地面に亀裂が走る。
「あ、」
熱風をまともに吸い、息ができない。
足下には、割れ目──。
引き込まれる寸前。冷たい風が通り抜けた。
「何してんだバカ!!ボサッと突っ立ってんじゃねー!」
木の上に着地させてくれたのは結だった。
お礼を言おうと口を開けるが結の手に阻まれた。
「熱風吸い込んだろ、黙ってろ」
それだけ言ってからまた空中に舞い戻る。
「甘いよー風雅」
すぐ後ろで声がした。
枝一本挟んだ所に水無月が立っていた。
手に持つ刃物が断頭台──ギロチンを思わせる。
「死ね、とは言わないけど──痛いのは我慢してね」
「どいてろ!」
再び結に抱きかかえられ、地上に下ろされる。
きぃぃんと頭上で音が鳴る。
「ふざけんじゃねぇぞ!こいつに手を出してみろ、俺様がぶっ殺してやるからな!!」
自ら腕に造り出した鎌が水無月の断頭台を受け止めていた。
「へぇ、口だけは達者だね風──」
「吹き飛べ!!」
水無月を囲む竜巻が起こった。
が、水無月の姿が消えた。
「ははははは、思い知ったか処刑野郎!」
得意げに笑う結。
月を背にして姿を表した水無月は少し悔しそうな顔をしていた。
「意外だな」
「おしゃべりも大概にしとけよ!!」
驚くようなスピードで結が水無月に駆けた。
ガキィィン、キィィンと音がするだけであまりにも速い二人の姿はもう見えない。


