「何で下がるの?」
にこにこと微笑む姿はいつもと何ら変わらないはずなのに、よく見ると目が全く笑っていない。
「悪い文月!」
「すみませんでした、文月先輩!」
二人同時に叫ぶと、文月が露李にくるりと向き直る。
冷たい笑みが、いつの間にか怪しいものに変わっている。
「つーゆりちゃん」
そう呼ばれたかと思うと、ふわりと温かいものが身体をつつんだ。
「文月先輩?」
後ろから手を回されて、前でクロス。
いわゆるあすなろ抱きをされている露李は、一瞬で顔を
赤くした。
「外で待ってたから寒かったんだよねー。これくらいは許されるでしょ?」
それを口実にされると何も言えない。
ぐっと言葉を詰まらせる。
「お、おおい!何してんだよ文月!」
結が焦ったように文月を離そうとする。
「目までおかしくなったの?抱きついてるんだよ」
「それは見れば分かる!」
茶化すように良いながら文月はクロスした手をきゅっと強める。
「あ、あのー…」
「ん?何、露李ちゃん」
文月は心底面白そうに露李の顔を覗きこむ。
「そろそろ、限界です…」
ぷしゅーっと音でもしそうな真っ赤さ加減に、また文月は楽しそうに笑う。
「ん、何が」
分かってる!もうこの人絶対分かってる!
露李は心の中で叫んだ。
恥ずかしすぎて声にはできないのだが。
「結は何を焦ってるの?」
「はぁ!?焦ってねーよ!つか露李も顔赤くしてんじゃねー!」
「全くうるさいよね」
「でかい声出させてんのは文月だろうが!お前のせいだぞ文月!」
「いや、俺にそんなこと言われても」
「俺なんて毎晩はちみつ生姜湯飲まねーと次の日声出ないんだからな!」
「それは結が無駄に大声出すから悪いんだと思うけど」
「ほっほら、帰りましょうよ二人とも!」
このままだと終わらない、と露李が文月の腕の中で声を上げた。
「そうだね~」
しゅるっと腕が解かれ、文月が歩き出す。
「もっ、もう!寒いから早く帰りますよ!」
分かりやすいことこの上無いが、露李はまたその先を行く。
結が文月に追いついて横に並んだ。
「分かりやすいよね結は」
「あ?何がだよ」
「面白いよ」
「てめっ…バカにしてやがんのか!」
文月はそれには答えず、露李の姿を眺めた。
寒空の下、薄暗がりに浮かび出るような白い肌。
かつての人形のように光を宿さなかった頃から一変、今や何色もの色を映す大きな瞳。
自ら光を放っているように見える、艶やかな栗色の髪。
儚げなのに、絶対に屈しない。
「あの子も俺たちも、血に縛られてる」
文月が呟いた。
結が僅かに目を文月に向け、そして同じように露李を見る。
「仕方ねーよ。俺たちはその名の下に生まれたんだ」
やけに切なそうに笑う。
文月は少し訝しげに結を窺った。


