『誰……』
動く度にギリギリと鎖が食い込み、加工などされているはずのない鉄でどこかが切れたのが分かった。
ぬらりと生温かい血が伝う。
『皆の記憶はあなたの母が消しておきました。しかし、あなたをここから出すわけにはいかない』
姿が見えない声には、どこか聞き覚えがあって──。
地面に足がつかない程度に吊り下げられた体勢のまま、露李の記憶は途切れる。
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「露李。聞いていますか」
露李はハッとして顔を上げた。
「申し訳、ありません」
未琴の目が冷たく細められた。
「貴女をあの時のように拘束するわけにはいきません。感づかれてしまいますからね」
誰に、というのは言うまでもない。
守護者たちが守ることを放棄してしまうかもしれない。
それは未琴にとって絶対に避けたい事態だった。
得体の知れない能力を持ち、神影の力を持たない者など風花姫として守るに値しない。
「掟として、選ばれた者はその座を降りることが出来ません」
「存じております」
「──よって、次に雹雷鬼を発動させた暁には貴女を眠らせます。その間に私は貴女の力が開花するようにできるだけのことをします。良いですね?」
「はい…」
守護者たちを信じていない訳ではないのに、自分のあの力が知られるのは怖かった。
侮蔑の視線を彼等から向けられるのはもう嫌だ。
初めて本当に心を開いた相手を失いたくない。
「もう下がりなさい」
「はい」
露李は苦渋の表情を顔に浮かべながら立ち上がり、部屋を後にした。


