暗くなり始めた空を仰ぐと颯大はベンチから立ち上がった。


「道場で組み手してるときに、何度かりり花の上に倒れ込んだことがあってさ。

俺だって一応男だから好きな子が目の前にいればそれなりのことは考える。

何度か、どさくさに紛れてキスしようかと思ったこともある。

りり花、隙だらけだしな。


でもさ、なんつうか、りり花にとって俺は空手仲間の一人でしかないんだよな。

それを無理やりどうこうしようとは思わないよ」



あのバカっ!


俺の知らないところでキスされそうになってんじゃねぇか!


爪が手のひらに食い込むほどに強く拳を握りしめた。



「りり花を困らせるのがわかってるのに

これ以上余計なことを言うつもりはないよ。


ちょっとりり花の顔が見たくなって寄っただけだから、もう帰るよ」


カバンを肩にかけた颯大をじっと見つめた。



「俺は、たとえりり花を困らせるってわかってても、

りり花を他の男のところになんか行かせられない」



思わず語気を強めると、颯大は目を細めて俺を見た。