「あたし、此処に残ろっかなー……なんて」
途端、ヴィルマの顔には不安が宿る。
「残るって……エナ?」
「此処の坊ちゃんがね、パーティー楽しんでってくれって言うもんだから」
エナは部屋を見渡した。
大きなソファーの上に色んな小道具と共に衣装が置かれている。
その一角を指差した。
「ねえ、そのドレス、貸してくれない?」
けれどヴィルマは表情を暗くしたまま、その問いには答えない。
「……アンタ、何をする気なんだい?」
予想通りの言葉に、エナは笑う。
「楽しんでいくだけだよ」
「そんなので、このアタシを誤魔化せると思ってんのかい?」
思っていない。
思うわけが無い。
嘘や誤魔化しなんてものはエナにとって苦手以外の何物でもなかったし、第一、世の中を渡ってきたヴィルマには人を見る目が備わっている。
誤魔化そうとしているわけではなく、聞かないでいて欲しいだけだ。
「迷惑、かけたくないの。これ以上」
だからわかって、とエナは告げた。
「何言ってんだい。アンタの迷惑なんて屁でもないさ」
母親のような台詞に、エナはゆっくりと首を横に振った。
「ヴィルマには、守るものが沢山ある。あたしにも守りたいものがある。あたしは、自分の大切なものを護る為に、ヴィルマから大切なもの、奪ってしまいたくない」
これから此処で一騒動起こすのだ。
もし姿を目撃されたなら、アルタイル一座に疑惑がかかる。
相手は貴族の街を代表する大貴族だ。
簡単に見逃してくれるはずがない。
「あたしは、ヴィルマ達の優しさにつけ込んだ悪党なの。いい? アルタ座にまんまと取り入ってドレスを盗んで消えた、悪党」
ヴィルマ達の為にも、此処でさよならをしなければならない。
そうしなければ思うように動けないのだ、エナ自身。
「ね、お願い、ヴィルマ」
仕切りから顔を覗かせた状態で両手を合わせて頼み込むエナに、ヴィルマは苦い顔をする。
「……それでも一人じゃ行かせないと言ったら……どうするつもりなんだい?」
困らせないでよ、とエナは苦笑した。
「あたし、ヴィルマと戦いたくない」
その答えを聞いて、ヴィルマは諦めたように息を吐いた。

