地図が示した場所は人気の少ない一角にあるマンホールだった。
下水道を行けということはわかったのだが、そこから先の道は描かれておらず、二人は下水道の中で随分と右往左往する羽目になった。
それでもなんとか上層に辿り着いた時、宴は既に始まっている時間だった。
渋るゼルを宥めて慌てて変装を施したまではよかったが、これがまた、さしものジストが大爆笑してしまう程に似合わなかったのだ。
「まさかあれだけ気持ち悪く仕上がるとは……」
込み上げてくる笑いを堪えることなくジストは言った。
とにかく美しい、の一言に尽きるジストに比べ、ゼルは随分荒削りの顔をしている。
男としては男前かもしれないが、根っからの男顔の為、女装がいっそのこと気持ち良いくらい似合わない。
まあ、無駄に発達しすぎた筋肉もその効果を手伝っている要因ではあろうが。
思い出してまで笑われ、ゼルはふてくされて顔を逸らし吐き捨てる。
「オレはオレで他の侵入経路を探すからよ」
女装して紛れ込む作戦を自らの容姿によって断たれたゼルだが、此処で大人しく待っている気にはなれなかった。
「ああ、そうしろ。コレを届けるのはお前の役目だからな」
そう言って、ジストはエナの武器を手渡した。
エナはいつも持ち歩く革の鞄の他は全てゼルかジストに預けている。
最初こそ反発していたゼルだが、それがもう四ヶ月にもなると人間とは不思議なもので慣れてしまうのだ。
まさか、武器までも預けているとは思わなかったが。
「マジ危機感ねェヤツだよな」
受け取った武器を見つめるゼルはふと、先ほどのジストの言葉に気を止めた。
「なァ、ジスト。あんた今……オレの役目っつった?」
「言ったが?」
それがどうした、と言わんばかりにジストは答えた。
「それはもしや、元々そのつもりだった、って受け取ってもいいってコトか?」
「ああ、構わないが?」
その瞬間、言いたい言葉の数々がゼルの頭の中を占拠した。
だがもう、何処から突っ込んで何処に怒れば良いのかわからない。
「つまり、オレが女装することは、ハナっから予定に無い、と?」
おそるおそる確認するゼルに対し、ジストはしれっとした顔。
「そう言っているだろうが」