砂漠の賢者 The Best BondS-3

 広い店内は、南東にある帝国、フォスアームエンパイアから取り寄せたに違いない高級絨毯に始まり、大理石のテーブル、本皮の黒ソファ、細かい銀のラメが散りばめられた白磁の壁に等間隔で設置されている電飾は透明のクリスタルで、美しい光が謙虚に揺れる。

 高い天井には眩しいほどに光るシャンデリアがぶら下がっており、贅沢の限りを尽くした様相が見て取れた。
 ジストは歩きながら店内の一角に目を止める。
 中二階のような場所――VIP席である。
 弧を描くような壁に沿ってずらりと置かれたソファーが敢えて見えやすくなっているのは、ノービルティアに住まう貴族達の自尊心を刺激するためだろう。
 皆一度はその席に座りたいと願い、一度座り、その快感を知ってしまうと二度と降りてこれなくなる。
 その席に座り続ける為に大枚を叩(ハタ)き続けるのだ。
 其処には既に先客が居た。
 十余名の女を侍らせ、だが驕ることなく静かにブランデーだかバーボンだかを呑んでいる。
 女性達の前にはシャンパングラス。
 まだ若く見える男だが、唸るほどの金を持っている。
 上流貴族の可能性が高いとジストは踏んだ。
 その席を斜めに見れる角度でジストは席についた。

 「ジスト様、ようこそお越しくださいました」

 席に座ってすぐに、見知った和服の女性が頭を下げる。
 年の頃は三十半ば。
 この店の経営者だ。

「随分ご無沙汰ですけれど、お変わりありませんでした?」

 黒服が持ってきたおしぼりを受け取りながら女性は隣に腰掛けた。

「ご無沙汰ってのは……嫌味だな?」

 流れるような動作で手渡されたおしぼりを片手で遊ばせながらジストは喉の奥で笑った。

「あら、そう聞こえました? 良い耳ですこと……飲み物は以前と同じで宜しいのかしら」

 上品に笑う女性も今や中流貴族層ではトップクラスの経済力を誇っている。
 それでもあまり宝石をごろごろと着けないところがジストは気に入っていた。
 ジストは頷き、心なしか声を潜める。

「それにしてもマリア、ちょっと来ない間に、あの席の安売りでも始めたのか? あんな若造が座れるとはな…」

 同じか、下手すれば相手の方が年上かもしれない相手に若造と言い切るジストに女性は口元を手で隠してまたもや上品に笑ってみせた。