砂漠の賢者 The Best BondS-3



 アルタイル一座の女性と別れてから一刻半程経った頃、ゼルに買出しを押し付けたジストはボージュという看板を掲げる店の前に来ていた。
 美しく着飾った若い女性達がお酒のお供をしてくれる代わりに法外な金額を請求されるこの店は、いわば会員制高級クラブだ。
 こういう店での情報収集はジストの最も得意とするところで、ゼルと居るよりも一人の方が成果があがると踏んで、ゼルに無理矢理他の用事を割り当てたのである。
 とはいえ、ゼルに与えた任務もなかなか重要なものだ。
 一つはエナの情報を探ること。
 エナが何か問題でも起こしていればその噂は必ずこの街を巡るだろうし、うまくすればエナと会えるかもしれない。
 そしてもう一つ。
 必要なものを書き出した紙切れを一枚、ゼルに手渡した。
 今頃、その内容を見て顔を真っ赤にして怒っている頃だろう。
 ちょっとした虐めのようなものを頼んだのだから。
 勿論わかってやっているあたり、嫌がらせの意図も充分に篭っている。
 そんな負けてもいないのに罰ゲームをさせられます的なゼルをよそに、いくら必要なこととはいえ、自分は高級クラブで美人に囲まれて酒を呑むのだ。
 ゼルが不憫で笑いが止まらない。
 このノービルティアの水商売は、昼も夜も余り関係が無い。
 昼から開店し、草木も眠る丑三つ時位に閉店する。
 暇と金を持て余した貴族が多い街らしいといえばいえる。
 ジストは扉を引いて足を踏み入れた。
 途端に、自分とそう年齢が変わらなさそうなスーツ姿の男が「いらっしゃいませ」と頭を下げた。
 其処で働く女性がより自分の仕事に専念出来るように店の雑務を一手に引き受ける、所謂『黒服』と呼ばれる男だ。
 その男が顔をあげたあと、しばらく固まる。
 こんなことは日常茶飯事だ。
 目の数も鼻の数も、他の人間と同じだというのに何をこんなに驚くことがあるのか、とジストは度々思う。
 とはいえ、自身の美貌の希少価値は重々熟知しているのであるが。
 取り敢えず微笑んでやると、男はようやく自身の仕事を思い出したのか、ジストを席へと案内する。