この男は何故こんな言葉を穏やかに優しく口に出来るのだろうか。
心配以上の何かがその声には多分に含まれていた。
「……揃いも揃って大袈裟だねぇ」
二人とも、これ以上ないほどにエナのことを気にかけている。
それは痛いほどよくわかった。
「そう思ってたきゃ、エナとはコレ以上関わんねェ方がイイよな」
「あー……だな」
苦笑する二人の脳内を覗くことは出来ないが、誤魔化しているようにも見えなかったので、それ以上のことには口を噤む。
「まあそうだね、どうしても上に行きたいなら、中流層のボージュって店に行ってみたらどうだい。そういう情報はそこの女達の方がよっぽど詳しい筈さ」
店の名前にジストの目が輝く。
どんな店なのか知っているのだろう。
「ああそっか。ジストさんたらすっかり忘れてたな。よし、ゼル行くぞ」
その店には上流貴族も出入りしている。
運良く会えれば、もしかしたら上にいく算段をつけられるかもしれない。
結局、この街での法則は上流貴族なのだ。
「は? エナに会うのが先じゃねェの?」
ゼルはげんなり、といった体で恨めがましい目をジストに向けた。
「待ってても仕方ないからね。上に行けなきゃ会ったところで同じことだ」
どうあっても上流貴族の住まう土地に足を踏み入れたいようだ。
何を言っても無駄なのだろうとヴィルマは説得を諦めた。
「アンタら一体上で何しようってんだい……ま、いいけどね。エナにはアンタらが訪ねてきたこと伝えておくよ」
身を翻す二人に言葉をかける。
「くれぐれも無茶すンなって言っといてくれな」
「あと、オネーサン達に迷惑かけないように、ってね」
ゼルもジストも半身だけをこちらに向けて軽く手を振った。
ヴィルマは腰に手をあてて、息を吐く。
「それをアタシの口から言えってのかい。いいんだよ、あの子とは同じ釜の飯を食ったんだ。迷惑の一つや二つなんでも無いさ」
エナは旅仲間の犬が連れ去られたのを追ってきたと言っていた。
相手は男といえど一人。
それなりに腕に自信がある集まりのアルタイル一座だ。
エナに危険が及ぶとは考えにくいことではあったが。
「本気で愛されて、羨ましい限りだねぇ」
二人の背中を見送りながらヴィルマは空へと呟いた。

