「あー……っと、悪いね、会わしてやりたいんだけどさ、エナなら此処には居ないよ」
ここまで執拗に聞いておいて今更言いにくかったが、事実なので仕方が無い。
「は?」
ゼルからしてみれば悩まされ損だ。
その思いがゼルの顔には如実に表れていた。
「講演が終わった後すぐにさ、人捜しに行っちまってね。まあ、夕方に落ち合う約束はあるから、その時でよけりゃ……」
言いながら煙管(キセル)に火を点けた。
少し甘い、独特の葉の匂いが広がる。
「ヤベェな……」
「空回りかー。こんなに会えないもんだとは思わなかったな」
二人は肩を寄せ合い、何やらひそひそと密談を始める。
商人がどうとか、ハセイゼン邸がどうとかという単語が聞こえる。
時折聞こえる単語を繋ぎ合わせようにも、ヴィルマには土台になる情報が欠けていた。
やがて二人は同時に頷き、こちらに向き直った。
「ねぇオネーサン、俺たちを上に連れてくことって出来ない?」
上、というのが上流貴族の住まう土地をあらわしていることがわかり、ヴィルマは片眉を寄せた。
「無茶言うんじゃないよ。上に行くには一切の個人情報の登録と証明が必要なんだ。エナは代わりってことで申請出来たけど、今更二人の増員なんて無理さね」
そんなこと、少し考えりゃわかるだろ、と言うと、ジストは生返事を返す。
「ま、そりゃそーなんだけどね…」
「他に上に行く方法ってなんかねェの?」
どうしても上に行きたいらしい二人にヴィルマは溜め息を吐いた。
過保護なんてもんじゃない。
心配なのはわかるとしても、どうにも行き過ぎのようにヴィルマは感じた。
「さぁ。アタシは知らないね。……あんまりこんなこたぁ言いたかないんだけどさ、たった半日の講演なんだ、大人しく待っててやれないのかい。あの子だって子どもじゃないんだ。信じて待ってやるのも仲間の務めなんじゃないのかい?」
けれど、男二人は訳知り顔で苦笑を漏らした。
「信じてるよ。エナちゃんの生き方を信じてるからこそ、待ってやれないんだよね。生きて帰って来る保障が無い」

