砂漠の賢者 The Best BondS-3

「ああん? ぶつかってきたのはそっちだろーが!」


案の定、ドスのきいた声が威嚇する。


「それは断固否定したいトコロなんですが! 二千三百六十五歩程譲って喧嘩両成敗ってことにしてやったのに、何、その言い草!!」


だが、エナの危機察知能力が壊れているのか、そもそもそんなものが存在しないのか、エナは堂々と言い返す。

なんでそんな中途半端な数字だよ、とゼルが人の波に紛れて呆れたように呟いた。


「うっせぇな! 文句あるってのか、このガキャぁ!」


体躯はそれほど大きくないが、真っ当な生き方をしていなさそうなギラついた目に剣呑な光が宿る。


「ある! おおいにありますとも! あんたみたいな大人がねぇ、世の中せちがらいモンにしてンのよ! どーしてゴメンの一言、言えないわけ?! そんな低俗なプライドなんか持つだけ無駄! 捨てちまえ!」


道往く人が立ち止まり、エナと男を中心に輪を作り始める。

男としては此処で引けないとでも思ったのか、それこそすぐさま殴りかかりそうな勢いだ。


「はっ! 最近のガキは目上のモンに対する口の聞き方もなってねぇのか! いっぺん体に教えてやろーか、あぁん?!」


威圧感を与える為かエナににじり寄るが、エナはエナで片手を腰にあてて、臨戦態勢をとった。


「謝れもしないくせに威厳だのなんだのと、くっだらない! そのうえ、責任転嫁に、話まで摩り替えるわけ?!」


見るからに十代の少女に、三十になるかどうかという男が説教されているような図は、男にとって屈辱以外の何物でもなく。

顔が真っ赤に染まっていく。


「お、前…! 言わせておけば…!」


だが、そこにエナの強い声がぴしゃりと響いた。


「情けないと思わないのっ?! 強さを履き違えてんじゃないわ! 威嚇して突っ掛かって、レベルの低い啖呵切ることしか出来なくて?! 言い返せなくなったら実力行使?!自分の非を認めてるから言い返せないんでしょーがっ! 悔しかったら、ぐぅの音も出ないくらいの正論言ってみれば?! ……ほら、言えないじゃない!」


言い合いにかけてはエナの口も頭もよく回る。

右に出る者はそう居ないだろう。

案の定、男は口を噤んだ。


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