砂漠の賢者 The Best BondS-3

 「……」

 ジストは一瞬、過去に想いを馳せた。
 この手で奪った命を。
 唯一温もりを感じた命を奪った日のことを。
 そして想像した。
 エナの命を手折る自分の姿を。

 「……――!」

 一瞬、息が詰まった。
 そこに感じた感情に。
 明確な一つの感情に。

 「ジスト? どーした?」

 その声がなければ、ジストはその感情に言葉という形を与えてしまうところだっただろう。
 だが幸いにもジストがその感情を形にすることは無かった。
 短くなった煙草を地に落とし、踵で踏み付ける。
 青空が凄まじい歓声に包まれ、講演の終わりを告げた。

 「……だいじょーぶ。エナちゃんにはジストさんが付いてるんだから」

 妙に間延びした口調は思いの外抑揚がなく、歓声にたやすく飲み込まれた。
 胸の中に、靄が生まれる。
 得体の知れない暗い靄。
 何かが壊れていく。
 何かが狂っていく。
 何かが、変わっていく。

 「―――と雰囲気変わってねえ?」

 首の筋肉がぴくりと痙攣した。
 届いていなかった言葉の一部に反応したジストはゼルを見遣る。

 「あ?」

 語尾を上げた音はぶっきらぼうというよりは威嚇染みていた。

 「いや、だからエナ。出会った頃と雰囲気変わってねーかって……つか、何キレてんだよ」

 わかんねーよと眉を顰めるゼルに、ジストは心底問い返した。

 「キレてる? 誰が」

 そんな感情はとうの昔に置いてきたはずだ。

 「アンタ以外に誰が居ンだよ」

 嫌そうに答えるゼルにジストは笑んだ。
 何故か可笑しさが込み上げて。

 「そうか。そうだな」
 「……?」

 今度は心配そうな表情をするゼルが更に可笑しくて。

 「俺にもまだ残ってたのか」

 図星を指されたと勘違いして感情の波が動くようなことが。
 子供染みた怒りを指摘されるようなことが。