砂漠の賢者 The Best BondS-3

 「エナ、どうしてっかなァ…」

 話題をすり替えるようにゼルはしみじみとそんな言葉を口にした。
 ジストは再び塀の中の音楽に意識を向ける。

 「あれぇ? ゼルちゃんてば。まだ一日足らずで、もう禁断症状?」

 その適当な台詞にゼルは隣に立ち同じように塀の中を見つめた。

 「バっカ言え。…でも四ヶ月近く毎日一緒だと居ねぇ方が不自然っーかさ」

 確かにそうだとジストは思う。
 四ヶ月もあれば、恋人達が倦怠期を味わうことも出来る。
 お互い嫌な所も見えるが情も湧く。
 それだけの月日なのだ。
 つまりは『当たり前』になるのだ。
 エナが居ない方が非日常になってしまう。

 「ま、あのキャラだしねー。火の消えた燈籠、鞘の無い刀みたいなもんだよねー」

 「燈籠はともかく…刀の例えは不吉すぎンだろ。危なくてしょうがねえよ」

 エナが居なければ火が消える。
 こうして男二人で行動しているのも、エナという要があってこそだ。
 そして刀のように危うい危険性を振りかざすエナの鞘になるべく追っているというのも事実。
 あの少女の鞘に成り得るのかどうかは定かではないが。

 「言いえて妙だと思わない?」
 「……言葉の意味がわかんねェ」
 「ピッタリの例えでしょ、て事」
 「ふーん、ナルホド」

 わかったのかわかっていないのか、視界の隅のゼルは顎を摩った。
 何かを考えている仕種。

 「…ジスト、オレさ、前に言われたコトあんだわ。エナの奴、自分が自分じゃなくなった時は殺してくれなんてよ」

 ゼルは言葉を切って、声を潜めた。
 自然と声は低くなる。

 「あいつ、なんかとんでもねぇモン抱えたりしてンじゃね?」

 ジストは視線をゆっくりとゼルに移した。
 だがそれだけで、沈黙は破らない。

 「……」

 そう思うことも多々あった。
 エナは時々尋常でない覚悟を見せる。
 言葉尻に重い決意を感じさせることも多々あった。

 「自分じゃなくなるってことがどーゆーコトなのかイマイチわかんねっけど……嘘とか例え話ってカンジじゃなかったんだよな」