砂漠の賢者 The Best BondS-3

 「……この音、なんだと思う?」

 そこでようやくゼルの意識は音楽を認識したようだった。

 「……なんだァ?」

 耳を澄ます。
 細い音だが、確かに聞こえる。
 歓声に音楽とくれば自ずと答えは出る。
 この塀の中には今、随一の人気を誇るアルタイル座が居るのだから。

 「あ! これってよ…」

 ゼルも気付いたようだ。
 運が良ければ、この広がる音楽の中心にエナが居る。

 「……結構遠いか……」

 音楽の広がり具合、反響具合からみて、この音楽が奏でられている場所迄の距離を推測する。
 警備を掻い潜ってアルタイル座には辿りつける。
 だが、そこにエナが居るかどうかは賭けだし、何より…。

 「…ひとっ走りってのも悪くねえが……ブラックリストに載ると後々面倒だな…。ゼル、お前行くか?」

 「どんだけヒトデナシだよアンタは?!」

 言っている内容を正しく理解したかどうかはわからないが、さらりと犯罪を示唆されたこと位は理解したらしい。

 「つか、どーなってんだ。手形、手配したんじゃねーのかよ」

 手配。確かにした。
 確かにしたのだ。宿場町で馬を休ませている間にノービルティアに住む闇仲間とでも言うべき者に手形の複写を頼んだ。
 所謂、偽手形だ。
 だがその優秀な模造師は約束の時間から三時間が経っても未だ現れない。

 「棺桶に片足突っ込んだ年寄りだからな。手形さえ手に入ればその辺で野垂れ死んでも構わないんだが……今は困るな」

 「アンタ、ぜってーロクな死に方しねェな」

 ゼルの呆れたような言葉を嘲るように鼻を鳴らした。
 声に茶目っ気を添える。

 「ジストさん的にはぁー、エナちゃんの上で腹上死するつもりなんだけどー」

 人差し指を唇に当てて首を傾げる。

 「ま、願ったり叶ったり?」

 ゼルはいよいよ本格的に呆れ、言葉を返す気力すら失ったようだった。