どんな町にも酒場はあるもので、どんな町でも悪と呼ばれる者はそこに集いたがるものだ。
一般に人が忌み嫌う類の情報が集まるのも酒場だ。
そして酒場には喧騒がつきものである。
ノービルティアの下流階級にある酒場の内装は立派なものであったが、客層はトルーアにある酒場と大差なかった。
他の町から流れて来た商人達が一仕事を終えて一杯の酒を楽しむ。
そんな場所だ。
人相の悪い男性客が多く集まるその場所に今足を踏み入れたのは、そんな場所は一見不釣り合いに見える黒髪の少女だった。
ひらひらとした衣装を纏い、かつらを被った、踊り子姿のままのエナである。
あちこちからの視線を浴びながら麦酒を注文し一口飲んだ後、酒場の奥で呑む一人の男に近寄った。
男はしきりに金を数えていた為、エナには気付いていない。
「そこのシケたツラしたおにーさん?」
呼び掛けて、男のグラスとジョッキを合わせる。
男は鳴ったグラスから腕を伝うように視線を上げた。
「ああン? 誰だてめ……ガッ」
威嚇染みた言葉を最後迄聞くつもりなどエナには無かった。
話し合う余地は無い。
ジョッキを持った手をそのまま振りあげる。
男の顎が上を向く。
グラスの割れる男と、テーブルが倒れる音が店を支配した。
そして男が椅子ごとひっくり返った音も。
散らばった貨幣があちこちでくるくると回っている。
「誰だ、って?」
ジョッキがごとりと床に落ちた。
底に残った麦酒が床の上に広がった。
仰向けに倒れた男が状況を把握する間も与えず、エナは男の腹を踏み付けた。
ヒールが食い込む痛みに男はくぐもった声をあげた。
「あたしの仲間拉致っといて」
かつらを取り払う。
肩に落ちた黄色い髪に、男が目を瞠る。
「それは無いんじゃない?」
エナは笑っていた。
エナは怒っていた。
口元は怒らない。
目は笑わない。
「お、前……!」
歯が折れたのか、切ったのか、開いた口の中は血が滲んでいた。
それを痛そうだとは思わなかった。
わかっていてやったのだから。
大事なのは一撃目。
一般に人が忌み嫌う類の情報が集まるのも酒場だ。
そして酒場には喧騒がつきものである。
ノービルティアの下流階級にある酒場の内装は立派なものであったが、客層はトルーアにある酒場と大差なかった。
他の町から流れて来た商人達が一仕事を終えて一杯の酒を楽しむ。
そんな場所だ。
人相の悪い男性客が多く集まるその場所に今足を踏み入れたのは、そんな場所は一見不釣り合いに見える黒髪の少女だった。
ひらひらとした衣装を纏い、かつらを被った、踊り子姿のままのエナである。
あちこちからの視線を浴びながら麦酒を注文し一口飲んだ後、酒場の奥で呑む一人の男に近寄った。
男はしきりに金を数えていた為、エナには気付いていない。
「そこのシケたツラしたおにーさん?」
呼び掛けて、男のグラスとジョッキを合わせる。
男は鳴ったグラスから腕を伝うように視線を上げた。
「ああン? 誰だてめ……ガッ」
威嚇染みた言葉を最後迄聞くつもりなどエナには無かった。
話し合う余地は無い。
ジョッキを持った手をそのまま振りあげる。
男の顎が上を向く。
グラスの割れる男と、テーブルが倒れる音が店を支配した。
そして男が椅子ごとひっくり返った音も。
散らばった貨幣があちこちでくるくると回っている。
「誰だ、って?」
ジョッキがごとりと床に落ちた。
底に残った麦酒が床の上に広がった。
仰向けに倒れた男が状況を把握する間も与えず、エナは男の腹を踏み付けた。
ヒールが食い込む痛みに男はくぐもった声をあげた。
「あたしの仲間拉致っといて」
かつらを取り払う。
肩に落ちた黄色い髪に、男が目を瞠る。
「それは無いんじゃない?」
エナは笑っていた。
エナは怒っていた。
口元は怒らない。
目は笑わない。
「お、前……!」
歯が折れたのか、切ったのか、開いた口の中は血が滲んでいた。
それを痛そうだとは思わなかった。
わかっていてやったのだから。
大事なのは一撃目。

