砂漠の賢者 The Best BondS-3

 ハセイゼンに食ってかかった時のエナの言葉をゼルはしっかりと記憶していた。

――あんたは、あいつらのこと知らないから!

 まるで自分は知っているかのような言い方だった。
 だからこそゼルは問う。

「なんか、関わりあンのか。龍と」

 だがエナは答えなかった。
 代わりにリゼが口を開く。

「そんなはずありません。龍は古の時代の生き物で、二先年も前に滅んでいます」

 龍の存在そのものを否定するかと思われたリゼは意外にもそんな言葉を発した。

「そんなこと、どうでもいい」

 そう告げるエナの目は爛々としていた。
 龍という存在そのものには興味が無い。

「あたしはただ、龍の鼓吹と書物が欲しいだけ」

 鼓吹は以前、すんでのところで闇の王たる人物に先を越され、手に入れることはかなわなかった。
 どんな些細なことでもいいから手掛かりを求めようとするエナの姿勢にリゼは目を細めた。

「なるほど、それが聞きたかったんですね。だからこのような手の込んだ真似を……」

「ちょっと待とうよ、エナちゃんはそんなつもりじゃ……」

 言いかけたジストをエナの掌が遮る。

「いい、ジスト。否定、出来ないから」

 リゼは紅茶を口に含み嚥下して鼻で息を吐き出した。
 それは落胆でもなんでもなく、寧ろ腑に落ちたといった様相だった。
 善意で何かされるよりも、裏がある方がまだ信頼出来るというのがリゼの持論なのである。

「真贋は定かじゃないですが、龍の書物については、昔オークションで競られたことがあるみたいですよ」

 意外とあっさり白状したことにエナは少し驚いたが、本当に驚いたのはこの後――リゼとジストの一連の会話だった。

「そんな珍品を競るオークションといやあ、プレタミューズか」

 エナが口を開くより先に何の気なしに呟いた甘い声がこの先の話の主導権を握ることになる。

「ええ。プレタミューズのオークションは世界的に有名ですが……」

 答えたリゼは一旦言葉を切り、ハリスグランに目を向けた。
 ハリスグランは煙管を吸いながら長い眉毛の奥にある片目を瞑ってみせた。

「好きにしなされ。儂はなーんも聞いとらんぞ」

 体ごと明後日の方を向いたハリスグランは長閑な秋の景色を見ながら煙管を吹かした。

「……ゴールドオークションというのはご存知ですか?」