砂漠の賢者 The Best BondS-3

 むしろ殴り足りないと溢したジストに、殺さないまでも容赦のない男だ、とエナなどは再認識する羽目になったのだ。
 そんな敵に回したくない男が不機嫌面を晒しているというのに、何のフォローも無く放置し続けるエナの神経の図太さにゼルはただただ溜飲の下がる思いだったが、それは彼の中で留められたのでエナが知ることはなかった。

「……確かに、これ以上は一人じゃ、ちょい無理か……」

 往診が終わったエナは呟いた後、松葉杖を片手に何の躊躇いもなく立ち上がった。
 痛みに怯える神経も持ち合わせていないらしい。

「ね、ゼル、ジスト」

 人差し指で呼び寄せると、ゼルは嫌な予感全開の顔で、ジストは久々にかかったお呼びに顔をぱぁっと綻ばせてエナに近寄る。
 案外簡単な男である。
 だが顔を寄せて耳打ちした内容に、ジストはまたも顔をしかめる。

「そんなの放っときゃいいのに」

 ぶつくさと愚痴るジストは、触らぬ神に祟りなしとばかりにゼルにさえも放置される。

「エナ、オマエそんなこと考えてたンかよ……」

 呆れ口調にエナは悪戯っ子のように口の両端を吊り上げた。

「お願い、ね」

 ゼルとジストは溜め息を吐いた。
 断れば彼女はまた傷を広げるような真似をするのだと容易に想像がついたからだ。

「全く、ウチの姫ってば何処までお人好しなんだか……」

「拒否権はねェんだろうな」

 そう言いながらも、彼らの表情もまた何処か活き活きとしたものだった。
 穏やかで刺激の無い一週間に飽々していたのは、何もエナだけではなかったのだ。

 ――――それから一刻が経ち、太陽が真上から四十度程傾いた頃。
 がんがんと激しい音がリゼの部屋の扉を打った。
 ノック、と呼べるような可愛らしい音ではない。

「リーゼー!!」

 明るい少女の声。
 松葉杖で扉を叩いているらしく、このままでは突き破られ兼ねないとリゼは痛む体を引きずって静かに扉を開け放つ。

「どうしました? 忍んで逢い引きするにはまだ陽が高すぎるようですが」

 柔和な笑顔から出た発言にエナは片眉を上げ、唇をへの字に曲げた。

「そゆキャラ、ジストだけで充分なんだけど」

 言葉使いが綺麗だからか神経の逆撫で具合は小さいが、その分、対応に困る。

「どうも彼と私は似ているようですからね。で、何の用ですか? まさか、今更文句を言いにきたわけでもないでしょう?」