砂漠の賢者 The Best BondS-3

エピローグ

 屋敷が赤々と空を染め替えた日から一週間が経った。
 街は未だに、あの日の噂で持ちきりだったが、昼下がりの暖かい陽気が包み込むハセイゼンの別邸は静かなもので――あるはずがなかった。
 一人の少女の絶叫が響き渡る。

「いったぁぁあぁぁいっっ!! このヤブ医者っっ!!」

 傷の消毒を受けながらエナは医者が座る椅子を蹴飛ばした。
 だが、何から何まで高級な調度品は蹴飛ばしたくらいではびくともしない。
 痛みに暴れるエナをものともせずに、医者は笑った。
 もう慣れたものである。

「安静にしなされと言うたじゃろ。言い付けを守らんからじゃ」

「うるさ……いいい痛っ! 痛いってば! うう、ハリス邸も燃えてしまえーっ!」

 そう、何をかくそうリゼの掛かり付けの医者というのは、カダルでエナを馬車に乗せてくれた、あのハリスグランだったのだ。
 その事実を知ったエナは大層再会を喜んだわけであるが、一週間も経てばこの通り、ヤブ医者扱いである。
 ちなみに、ハリスグラン家がハセイゼンと同じくノービルティアを支えてきた名門貴族であると教えてくれたのはジストだった。

「エナにかかれば世界一と謳(ウタ)われた名医も形なしですね。で? 今日はまたどうして傷を開かせるような真似を?」

「お前もうっさいわ! キノコ頭!」

 結局、彼らはあの日からリゼの別邸で世話になっていた。
 リゼとの間にある溝は未だに修復出来ていなかったが、夜盗に入られハセイゼンが殺されたのだという噂に信憑性を持たせない為にも、満身創痍のエナが下層に降りるわけにいかず――なんせ、エナの容姿は目に止まりやすいのである――抜糸が出来るまで、せめて包帯を外せるようになるまでは上層から出ない方が得策と判断してのことだった。
 だが二日目までは大人しくしていたエナも三日目には体力も回復し、ゼルが作った松葉杖で屋敷内を徘徊して階段から落ちてみたり、その翌日には勝手にリハビリを始めてみたり、リハビリ道具を取り上げられた更に翌日には松葉杖を使って体を動かしたり、昨日は何を考えたかノコギリを持ち出して裏庭――といっても、丘やら山やらを含めた広大な土地である――で木を一本切り出してきたりと、傷を開かせるような真似ばかりして、心配性のゼルをはじめ、ジストは勿論、流石のリゼまでもが頭を抱えた。