砂漠の賢者 The Best BondS-3

 死ぬという選択肢を持たぬ者に、それでも生きろと果たして自分は言えるだろうか。
 これから訪れる未来永劫の苦しみを知っているのなら、尚更。
 言えないのかもしれない。
 でも、それでも。

「あたしなら、生きたい」

 二刻も経っていればもう既に動物達は死に絶えているだろう。
 言っても栓の無いことだ。
 けれど言わずにはいられなかった。

「ねぇ、エナちゃん、わかってる?」

 ジストは笑う。
 さして可笑しくもなさそうに。
 そこには、皮肉の響き。

「エナちゃんが生きたいと思った結果が、これなんだよ」

 エナはその言葉に上半身を起こしきる。
 ジストの手がごく自然に背中に回されてエナを支えた。

「あいつの行動はエナちゃんにとって不本意だったかもしれないけどね、だからこそエナちゃんは生きてる。そしてハセイゼンが死んだ。だから、燃やすしかなかった。そしてそのきっかけを作ったのは、やっぱりエナちゃんなんだよ」

 子どもに言い聞かせるような優しい響きの辛辣な内容はエナの心に影を落とす。
 自身が生きているというこの結果こそが、様々な犠牲を強いた。
 それでも、自身が死ぬという選択肢は何処にも見当たらなかったのだ。
 全てが終わった今でも、自分が死んでいれば良かったとはどうしても思えない。

――この狡猾さが、命を消したんだ……。

 沈み込んだエナをジストの腕が抱き寄せた。
 抵抗を忘れた体は、与えられた力のままにジストに体重を預ける。

「それだけエナちゃんの意志は強くて、周りを翻弄するってこと」

 ふ、と笑う気配と共に顔に影が落ちる。
 視線をあげると至近距離で紅とぶつかった。
 いつもは感情を読み取れないその瞳は今、困ったような光を湛えている。

「……そろそろ自覚しろよ」

 抱き締められ、低くて甘い囁きが耳に吹き込まれたけれど、その内容はエナには理解出来ぬものだった。

「ジ、ス……?」