砂漠の賢者 The Best BondS-3

「俺が? 止める? 何の為に?」

 優しいのかと思えば、急にこのような薄情なことをしれっと言ってのけるジストに困惑する。

「だって、誰にも殺す権利なんて……!」

 自然の理を歪めたのが事実だとしても、生まれてきた以上、生きる権利はある。
 人間が勝手にどうこう決めて良いことじゃない。

「そう? 慈悲深い判断だと思うよ?」

「どこが!?」

 噛みつく勢いのエナの唇に、ジストは人差し指を押し当てる。

「考えてもみろ」

 冷たいというのとはまた別の瞳を彼はしていた。
 言うなれば、其れは諦め。

「あれだけ大騒ぎすれば、明日にはこの噂で持ちきりになるよ。隠蔽するにも、あのドラ息子はまだ権力を扱いきれないだろうからね。……宴で人が集まっていたのが災いしたってとこか」

 噂好きな貴族の街では確かにそうだろう。
 姫君達は原型を留めぬ程の、推測を膨らました噂を流すだろうし、警備隊の中からも口を滑らす者が出てくるかもしれない。

「そうなればどうなる? 現にハセイゼンも死んだんだ、警備隊も捜査するしかないでしょ」

 この街を支える貴族の支柱が欠けたら――しかもそれがあのような変死をしていたら。
 捜査が入るのは当然だ。

「……あ」

 そうすれば動物達の存在が明るみに出る。
 あの、世にも稀な生き物の存在が世間に知れる。

「あの動物達は実験の対象になるだろうよ。あとはもう……わかるよね?」

 エナは唇を噛み締めた。
 散々実験に使われた後に、待っているのは死。
 ハセイゼンが死んだ以上、情報操作は不可能だ。
 良くも悪くも、あの男がこの街を牛耳っていた権力が情報操作を許さない――証拠が残っているならば。

「……それでも、やっぱり……」

「人間は嫌になれば舌を噛み切ることができる。刃があれば心臓を貫くこともね。だけど動物はそうじゃない。どれほど苦しくても生きることを手放せない。それが本能だから」

 ジストの諭すような言葉を受けてエナは隣で丸まっているラファエルを見た。
 首にはくっきりとあの首輪の痕が残っている。
 おそらく、エナが救出に行くまでの間に散々逃げ出そうとしたのだろう。
 歯茎から血を流したことも知っている。
 それは、自由に生きるという本能から為したこと。