砂漠の賢者 The Best BondS-3

 髪を掻き揚げるその仕種。
 飛び散る雫が光をうけて輝く。
 しなやかな筋肉も、見え隠れする顔の形も。悔しいけれど、どんな絵画よりも美しい。
 その視線に気付いたのか、ジストはエナを横目で見て意地悪そうに笑った。
 立ち上がり、戻ってくる。
 普段、あまり見ないジストの濡れ髪。
 紅が更に深く染まり、髪から頬へと水滴を垂らす。
 妖艶さがむせかえる程に色濃く立ち上る彼は普段とはまるで別人。
 だが、そんな色香もエナには通用しない。

「なぁに、見惚れちゃった?」

 ジストはエナの隣に腰を下ろした。

「自信過剰」

 くすくすと笑う気配を隣にエナは吐き捨てるように言って、再び夜空を仰いだ。
 夜空と言っても空の半分は伸びる枝によって塞がれていたが。
 綺麗だなぁ、と思ったところでエナはふと疑問を抱く。

「ね、手当てってさ……誰が?」

 銃弾が体を突き抜けなかったのはエナ自身わかっていた。
 そして現在、その弾が取り除かれていることも。
 じくじくと痛んでも、あの神経を刺すような痛みは無かったから。
 となれば、素人の手によるものではないし、医者に行ったのならば、ジストが自分を此処に連れてきた理由がわからない。
 目覚めた場所が病院でも宿でもなく、何故、上層の林だというのか。

「まぁた質問?」

 やれやれ、とでも言いたげな口調だったが、どことなく声が重い。
 おそらく自身の中に湧いた疑問をこの男は気付いている、とエナは感じた。

「……答えて。」

 強く促すと、美しい唇からは溜め息が零れた。

「あの坊っちゃんは心臓が弱いらしいよ」

 あの坊っちゃん、というのがリゼだということはすぐさま理解出来たが、そんな情報等は欲していない。
 何故そんなことを言い出すのか――実のところ、ある種の予測はたっていたが――エナは首を傾げた。

「エナちゃんを治療したのは、あいつの掛かり付けの医者」

 ああやっぱり、とエナは心中で呟いた。
 それと同時にジストの口調が戻っていることに気付く。
 声が低いままだが、それでもこれはいつものジストだ。

「それで……あたしが起きた時、リゼが居たらまた暴れると思って此処に?」

 ジストは眉を引きあげて、どうかな、と答えた。