砂漠の賢者 The Best BondS-3

 ということは、今は草木も眠る丑三つ時を少し回ったあたりだろうか。

「……この体勢、どうにかなんない?」
「ならない」

 真上から見下ろされるのはどうも居心地が悪いと進言するも、帰ってきた即答は取りつく島もないものだった。

「……なんでよ?」

 恨めがましい目にジストは呆れたように笑った。

「……ったく、質問ばかりだな、お前は」

 その笑顔に毒気が抜かれてしまったことが癪でエナは唇を尖らせる。

「じゃあ……えっと…………」

 質問以外、と思考を巡らせて巡らせて、たどり着いたのは結局、一番初めに言いたかったこと。

「ごめん、ね」

 突然の謝罪にエナを撫でるジストの手が止まる。
 真上から降ってくるのは不思議そうな視線。

「心配、かけた……かな、って」

 エナは目を逸らした。
 『一人で突っ走るな』と、つい最近にも言われた身としては今回のとった行動が決して褒められたものではないことを理解していたから、その、なんというか罰が悪かったのだ。

「黙ってないで、なんかゆっ――」

 何も言わずにただ注がれるだけの視線に耐え兼ねてジストを見る。
 そして。
 息を、呑んだ。
 真摯な瞳が、そこには在った。
 びくりとしたのは、恐怖からでは無い筈だ。
 けれど、それに近い感覚が胸を締め付けた。
 余りにも感情を雄弁に物語る紅の色が、胸に苦しい。
 こんな目をさせてしまうほどに心配をかけていたのかと思い至った。

「ジス……」
「まあ、いいか」

 更に謝罪を重ねるべきかと名を呼びかけたエナにジストの低く深い声が被さった。

「お前は今、生きている。後遺症も無さそうだしな。それでいいさ。大目に見てやるよ」

 今回だけだからな、と念を押してジストは笑んだ。
 その表情にエナはほっと息を吐く。
 あのような目で見つめ続けられると申し訳なさに酸欠になってしまう。
 ただでさえ、身の置き所に困る体勢だ。
 穴が空きそうな視線を受けることだけでも避けたい。

「……ねえ、やっぱこの姿勢、居心地悪いんだけど」
「言いたいことは山ほどあるが、我慢してやることにしたんだ。これくらい良しとしろ」

 いつもの茶化すような話し方じゃないのも、エナの居心地を更に悪くさせる。

「言いたいコトゆってくれたほうがマシかも」

 ジストは顔を顰めた。

「そんなに嫌がるな」
「だってヤだもん」