砂漠の賢者 The Best BondS-3



 指がぴくりと震え、小さな小さな身動ぎの後。
 色違いの双眸は光を取り戻す。
 飛び散りかけた記憶を全て集めて。
 宙に浮いた色々な記憶が収縮するように一つに戻る。
 肌を涼しい風が撫でていく。
 目に飛び込んできた色は白と黒。
 そして、木々から零れる無数の小さな光。
 ふわふわの、白い毛がぶんぶんと顔の横で揺れ、真上で黒い巻き髪がゆったりと動いた。
 真上から、しかも結構な至近距離で見下ろされているという事態にも、纏まらない思考は単純にその光景を受け入れて彼女は微笑む。
 彼女を見下ろす男が余りに切ない小さな笑みを浮かべていたから。
 それは夢と現実のほんの一瞬の境界。
 無防備で、それでいて天女のごとき微笑みは、普段ならばなかなか見られない代物。

「……調子はどうだ?」

 安堵の表情を浮かべ、微笑む人に。

「やっぱ似合ってるね、それ」

 ほんの少し、目を細めて笑顔を返す。
 ラファエルが擦り寄ってきたから手を動かし、頭を撫でてやろうとして、自分の手が包帯に包まれていることを知った。

「何処か痛むか?」

 この言葉にエナは極上の音楽のような声を立てて笑った。

「なんかもう、全身」
「そうだろうな」

 目が重たい。
 体は休息を求めていた。
 けれど、眠ってしまうには気がかりなことが多すぎる。

「あれから、どうなった?」

「今、バカが情報集めに行ってる。おっと、まだ動くなよ」

 起き上がろうと首に力を入れたのを感じ取った女装姿のジストは怪我の無い方の肩を押さえ、その動きを封じた。
 ジストの手がエナの前髪をかきあげて額に優しく触れる。
 心地好い温もりを味わいたかったのはエナかジスト、一体どちらであったのか。

「ねえ、あの火事は?」

「……全て片付いたさ。お前が心配することじゃない」

 そう、と半眼を閉じた。
 閉じきる前に再び開く。

「ここ、は?」
「上層の外れの林」

 ジストが少し視線を揺らしたあと、エナの髪を撫でた。

「あれから、どれ位経った?」
「そうだな、二刻ってトコかな」