砂漠の賢者 The Best BondS-3

2.

 何処か遠くから歌が聞こえた。
 懐かしさを呼び起こす歌。

――何処で、聞いたんだっけ。

 夢の中、ふわふわと浮遊する意識の片隅で考える。

――誰が、歌ってたんだっけ……?

 心地好い低い声は男性のものであるとわかるが、それ以上のことはわからない。
 澄んだ水のような歌声は、エナの心に優しい細波(サザナミ)を立てる。
 エナは懐かしさを感じさせる歌に耳を傾けた。

――水の精よ 川を作ろう
進むべく場所を
愛する人が惑わぬように

火の精よ 道を照らそう
頼りない一歩を
愛する人が畏れぬように

地の精よ 優しく包もう
この道の何処かで
愛する人が疲れぬように

風の精よ 未来へ吹こう
暖かな明日へと
愛する人を導くために――

 大切な人の幸せな未来を願う歌だ。
 そして。

――約束の、唄。

 かつて誰かが言ってくれたのを覚えている。

『これはきみを護る唄。きみと世界を結ぶ約束の唄』

 この歌声と同じ声で穏やかに告げたのは誰だったか。

『――そして、誰かの鎮魂歌になる』

 銀色という色彩が記憶を埋め尽くす。
 もう少し。もう少しで思い出せると思った時。
 ふと、歌が止んだ。
 そして旋律を奏でるような声が言葉を紡いだ。

――起きなさい。私の愛しい人――

 貴方は誰だと問うことは叶わなかった。
 温かい何かと共に、押し上げられるのにも似た感覚がエナを支配したからだ。
 押し上げられた意識が覚醒へと手を伸ばす。

――待って、まだ聞きたいことが――……!

 叫びは現実に呑み込まれ、そしてエナは覚醒する。