砂漠の賢者 The Best BondS-3

「あんたが大切に思ってるもの護るのは、リゼ。あんたしか居ないよ」

 そんな当たり前のことを言われても、と思う反面、その言葉はリゼの心を深く抉る。
 護りたいものなどないというのにも関わらず、抉られていく。

「……リゼは、護らなきゃ、駄目だったんだよ」

 ですから、何を護れと?
 声に出す気にはなれなかった。
 深く追求されるのを避けたかったからかもしれない。
 けれど逃げられぬ。
 この、少女からは。

「壊すことで安心してるの?」

 その瞬間、脳髄を鈍器で殴られたような衝撃が走った。

「だから、笑ったの? もう永遠に捨てられることが無いから? 怖がり続けることから、開放されたから?」

 図星かどうかさえ判断出来なかった。
 ただ心臓の鼓動が強く早くなっていく。
 気がつけば微笑んでいた。
 この体の反応を悟られまいとするように。

「では、私は貴女を殺せば良かったということですか」

 エナは一瞬眉を下げた。
 悲しそうなその表情は憐れんでいるようにも見える。

「話、摩り替えないで」

「変えてなどいませんよ。貴女はどうしても、あの男が大切だったと言わせたいようですが、では例えば仮にそうだったとして、あの場面でどうするのが正しかったのか貴女の講釈を聞かせてください」

 敢えて挑発の色を含ませたというのに、エナは静かに頭を振った。

「……わかんない」

 そう答えてエナは再び立ち上がった。

「あたしは生きたいし、命の奪い合いもしたくない」

 ハセイゼンに撃たれた足が震えている。
 中に残る銃弾が神経を圧迫しているのだろう。
 それでも流れ出る言葉は流暢だ。
 もしかしたら、既に痛みを感じていないのかもしれない。

「けどお互い、譲れないものがある時。避けられない戦いは、ある。その時は護りたいもの、護るだけ。それぞれの、心のままに」

「心のままと言うのなら……」

 あれもまた、自身の心に従った結果だ。
 そう信じ、口にしかけたリゼをエナは止めた。
 たった一つの微笑みで。
 伝わってくる痛い程の悲しみと、それでも彼女の中にある信念。
 聖者の掲げる正論とは程遠い、矛盾に満ちた信念。
 その綺麗事の中心にあるのは、彼女自身の心のみ。

「何が、おかしいのですか……」

 視線を逸らした、その一瞬のことだった。