砂漠の賢者 The Best BondS-3

 エナは前に跳び、転がっていたナイフを手にすると前転をしてから体を起こし、そのままキャサリンの胴目掛けて投げつけた。
 キャサリンは其れから避難するように再び天井近くまで舞い上がり、ぎょろりとした目をエナに向けた。
 燭台から取り外した蝋燭を手に、エナが不敵に笑う。
 七つ道具の一つ、マッチを擦り、火を灯す。

「所詮、飼い鳥のくせに、あたしを食べる? はん、甘いんじゃない?」

 全ての動物は火を恐れるのが定石。
 本来、か弱い人間がここまで繁栄出来たのは偏に火を使う知能を持ったからだ。

「人類の起源に万歳、っと!」

 エナは楽しげに声をあげて、それをキャサリンへと投げつけた。
 標的が大きいとはいえ、自由に舞う鳥にそんなものが当たるわけがない。
 そもそも、投げつけた時点で火など消える。

「こっちが本命!」

 エナは自身の足首を固定していた蝋燭を抜き取り火をつけた。

「そして、乙女のエチケット、その二」

 取り出した小さな香水のビンを硝子に叩き付ける。
 何をするのかを察したのだろう。
 ハセイゼンが制止の声を放つ。

「ま、待っ……」

「嫌。」

 エナはにんまりと笑って香水が垂れた部分に蝋燭を近付けた。
 途端に這うような炎が絨毯へと向かう。
 エナは蝋燭を投げ捨てて燭台をしっかりと握り直した。

「キャシー丸焦げにしたくなきゃ、そこ、開ければ?」

 聞こえたかどうかはどうでもいい。
 よしんば聞こえていたところで開けるなどとは端っから思っていない。
 どうせ、エナの狙いは別にあるのだ。
 炎が黒い煙をもうもうとあげて徐々に広がっていく。

「さっすが高級絨毯。よく燃えるわ」

 吐き捨てるようでいて弾む声にキャサリンの狂ったようなそれが被さる。

「騒いでても助かんないよ。ダクトに向かって飛んでみるっ?」

 エナは騒ぎ立てるキャサリンの足の爪の一つに後ろから片手で飛びついた。
 ラファエルがエナの目配せに応え、エナの体を器用に駆け上る。

「皆で一緒に、ね!」

 キャサリンは急に増えた重みに暴れ、羽をばたばたと動かした。
 高度が少しずつ上がっていく。
 一か八か苦肉の策だったが、運はまたこちらにあるらしい。
 キャサリンは暴れながらも確実に浮上し、幸運にも通気孔の方へと近づいている。