砂漠の賢者 The Best BondS-3

 低く呟くと、不思議と心は穏やかさを取り戻す――微々たる穏やかさではあるが。
 どうせ警備隊は中には入ってこないだろうし、他に出来ることもないのだから時間はあるのだ。
 根気よく、やればいい。
 感情の上ではこれ以上ない程の短気さを発揮するエナであるが、その分爆発的な集中力を持ち、そして切迫した状況においては意外にも持続するものだ。
 このことから、エナの飽きっぽさは根気と忍耐をただ単に嫌っているということが浮き彫りになったわけだが、そのことを指摘出来る人間は今、傍には居ない。

「あのダクトから毒ガスが……とかって漫画みたいなこと、起こんなきゃいいな」

 希望的観測なのか、懸念であるのか。
 どちらとも言えない声音で天井を見上げる。
 脱出方法も同時に考えねばならないのだ。
 ダクトはエナくらいならば何とか通れそうな太さがあったが、生憎とそのダクトは高位置にありすぎて、鳥にでもならない限り不可能だ。
 ちらり、と怪鳥に目を向けてみるものの、いきり立っている怪鳥を思い通りに操るのは無理だと諦める。
 そのままラファエルに視線を落とすと、口程の太さもある鎖をかじるラファエルが目に入った。
 何か自分にも出来ることを、とでも思っているのだろう。

「ラフ」

 優しく声をかけると、歯茎から血を覗かせたラファエルは鎖を銜(クワ)えたままエナを見上げた。
 その姿が痛ましくて、エナは目を細めた。

「歯が傷むから。駄目」

 言い聞かせるようにゆっくりと告げるとラファエルはエナの目を見ながら鎖をがちゃりと床に置いた。

「そ。いいコだね」

 ラファエルを撫でようと手を伸ばした、その時だった。
 頭上から、音が降る。
 動物達の鳴き声さえも掻き消すサイレン音。
 耳にするだけで気が焦る嫌な音が鼓膜にぶつかり、それはそのまま彼女の神経を逆撫でる。
 地下全体に赤い光が点滅し、エナはぐるりと周囲を見回した。

「今度は、何!?」

 癇癪に近い声をあげたエナは、思ったより自身に与えられた時間が残り少ないことを悟る。
 悠長に構えている場合ではない。
 ラファエルに向き直り、液晶に手を伸ばし、そして。