「ラフが?! どうした?!」
エナはゼルに掴みかかった。
鬼気迫るその顔に、ゼルが身を引こうとした時。
「拉致られたっ!!」
端的に言い過ぎるエナの言動は、結果だけはすぐさま理解出来るが、経緯というものがまるで無い。
むっとした顔でゼルからエナを引き剥がしたジストが、鬼の形相を宥めるように覗き込んだ。
「いつ、何処で、誰に?」
話すべきことを提示されたことで、幾分冷静さを取り戻したエナが語った内容はこうだ。
それは、数分前の出来事だという。
替えの服やら下着を買い終え、物見遊山気分で歩きそろそろ五時を迎えようとしていた頃、ふと薬草が切れかけているのを思い出し、葉や薬の類を売る店で足を止めた時のことである。
嗅覚の優れたラフに、薬や葉の混ざった臭いは余りにも酷だと考え、店の入り口で待っているように言いつけた。
そして、目当てのものと、興味ひかれた葉を何種か求めて精算していた時。
ラフが背後で、ぶにゃあ、と潰れたような声を出した。
誰かに尻尾でも踏まれたのかと振り返った先でエナが見たものは。
走り去っていく男と、脇の間から見える、白いふわふわの毛並み。
「! ラ…!」
すぐさま追おうと踏み出したエナの後ろ手を掴む者が居なければ、それは事なきを得たに違いない。
だが、現に。
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