少なくとも、長野くんとはそうなれなかった。


時計をチラッと見れば、8時15分。


そろそろ来る。
なんて、思ってると、本当に彼が廊下を歩いているのが見えた。


教室に来た長野くん。


「おう!長野!!」


朝からハイテンションな先生に苦笑いで挨拶を返す長野くん。


いつもの制服。いつものマフラー。
いつもの鞄。いつもの髪型。


「おはよう。長野くん」


至って普通の声が出た。
だけど、その瞬間、私は気づいた。


唇を必死に持ち上げる、私の顔が強張っていることを。


私のその表情に気づいて、彼は少し困ったかのように、眉を下げて、笑顔を作った。


作ったのが一瞬で悟ってしまうほど、下手くそな笑顔。


「……おはよ、近藤さん」


いつもの制服。いつものマフラー。
いつもの鞄。いつもの髪型。


……だけど、いつもの笑顔、は無理だった。