「染まることを悪いとは思いません。ですが、互いが互いを利用し、潰し合うことはよろしくない」


とは言え、観月は傍観者――とまでは言わないが、常に冷静な視点を持つように心がけている。


「中立は、いますか?」

「いくら派閥争いが周知の事実でも、傍観者に徹している者が大半です。――私からは一言だけ。秘書の中では、梅原が一番、公私混同をしない子です」


話を終えると、観月は足早に仕事へと戻った。

凛子は残り、外の景色を眺める。


環がわざわざ外で秘書を探していた理由が、少しだけわかった気がする。

この会社は、縮小された国のようだ。
その国の中で、次の王様を決めるため、いろいろな人の思惑が絡み合っている。


でも凛子は、派閥争いがしたくてこの会社に来た訳じゃない。


「…仕事に戻らないと」


そう、自分は働きに来たのだ。
この小さな国の中で。

外に背を向けて、凛子は秘書室へと戻ることにした。