「社長は一人息子でしたから、大きな問題もなく就任しました。そして今、社長には3人のご子息がいます」


副社長の貴志。

専務の環。

常務の恭介だ。


「誰が次の社長になるかは、決まっていません。だから皆、誰に付くのが得策なのか、互いの顔色をうかがっている」

「同じ会社なのに…」

「おかしな話でしょう? でも、ここではこれが当たり前。何も知らずに入社した者も、いつの間にか誰派だとか、そんな話をし始める」


秘書室の大半が、既に誰かの派閥に属している。
それが誰で、どこの派閥に属しているのかは、聞かぬのが暗黙の了解とされているが。


「朱に交われば、赤くなる」

「その通りですね。そして既に、あなたも染まっている」


違います、と言おうとしたが、それは無理な話だった。

凛子の気持ちとは関係なく、周りは自分を専務派だと確信している。