手の温もりに、気が引き締まる。
走り去る車を見送りながら、腕時計をそっと撫でる。
これを見るたびに、思い出すだろう。
あの人の期待に応える事が、何よりの恩返しになる。
先のことはわからないけど、この幸運を与えてくれたのは、他ならぬ環なのだから。
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「秘書室室長の、観月です」
「安生です。よろしく、お願いします」
約束の1ヶ月後、凛子は株式会社サクラに入社した。
予想以上に自社ビルが大きくて、何度か入るのを躊躇ってしまう程だったが、今はそんな気持ちも薄れている。
秘書達の視線が一斉に注がれているのだ。
足が震えていないか、心配になる。
「秘書の経験が無いと聞いていますから、まずは最初の1ヶ月を研修期間として設けます。良いですね?」
「は、はい」
厳しそうな観月に、返事の声が小さくなる。



