なので着いてきたが、時計ショップに来るとは思っていなかった。


「あの! 時計は持ってます!」

「――知ってる」


やっとこちらを向いてくれたが、環はすぐにショーケースへ視線を戻す。


「だから、時計はいらないんです。こんな高いもの、買えませんし…」


最後の方は、店員に聞こえないよう小声にしたが。


「俺のために、買うんだ」

「女性の時計を愛用してるんですか?」


なんだか意外で、つい聞き返してしまった。


「違う。俺のために、君に買うんだ」

「…何故ですか?」


やっぱり、聞き返してしまった。

環の言葉は、いつだって回りくどい。


「まぁ、俺からの就職祝いみたいなものだ」


それを素直に受け取れないのは、自分がひねくれているからなのか。