一礼して、暖かい自分の部屋へと戻る。
振り返れば、やっぱり環は車に乗らず待っていた。
その優しさは、女性を誤解させると思う。
多分、環の性分なのだろうが、自分は勘違いしないよう、気を付けなくては。
部屋に入る前にもう一度頭を下げ、凛子はゆっくりとドアを閉めた。
耳を澄まし、車が走り去るのを確認する。
「……」
なんだか夢を見ているようで、しばらく玄関から動けなかった。
就職できる。
しかも大企業の、しかも専務の秘書になるのだ。
自分が思い描いていた就職とは遥かに違うが、こんな幸運、誰もが手にできるものじゃない。
決断は早かったが、悩んでいる内に幸運が去ってしまうかもしれない。
だから、この幸運を無駄にしてはいけない。
期待と不安を胸に、夜は静かに更けていく。



