この恋心に嘘をつく


(そういえば、辞めたって言ってなかった)


ようやく就職できた、と母親に連絡した時のことを思い出す。

とても喜んでくれていたから、伝えるのは忍びない。


「言わなきゃ」


また心配をかけてしまうが、嘘をつきたくはない。


「……お母さん? うん、今大丈夫?」


すぐに電話に出た母は、元気な声をしていた。


『仕事には慣れた? 秘書は大変じゃない?』

「……どんな仕事も大変でしょ? 私は、まぁうまくやってる」


嘘をついてしまった自分が、情けない。


「うん、おやすみ。お父さんにも、よろしく言っておいて。じゃあね」


電話を終わらせると、自己嫌悪で盛大なため息が漏れる。

嘘をつきたくないと思ったのに、結局、嘘をついてしまった。