環の機嫌を損ねたくはない。
(それに、秘書ってどこまで踏み込んでいいの?)
線引きがわからなくて、未だに戸惑うことは多い。
信頼を得ることと、親しくなることは違う。
与えられた仕事だけしていても、それは他の秘書と変わらない。
専務付きなのだから、誰よりも環を分かるようにならなくては。
「難しいわ…」
「何が?」
観月と入れ替わるように、羽村が給湯室にやって来た。
「何でもない。秘書の仕事って、難しいなぁ、と思って」
「そうね。意外とハードなのよね」
自分のカップを棚から取り出し、コーヒーの準備を始める。
「そうだ! 安生さんに頼みがあるの」
「私に、ですか?」
羽村が迷うように視線を泳がせる。



