慎司は突然立ち上がると、砂をはたいて大きく背伸びをした。


夜空を再び見上げた後、視線を少しだけ向けて……呟いた。



「玲花……ごめんな」


「何で慎司が謝るの? 私が浮気したって言っているのに……」



慎司は私の手を取って、簡単に抱え上げる。

そして、宝物を扱うかのように優しく抱きしめた。



「そうさせたのは俺だろ。ごめん……」



慎司……私、浮気しなければよかった。


後悔したって遅いけど、時間は元には戻らないけど。


あなたにそんな顔させたくなかった。


私の好きな、ちょっと強引で意地悪で優しい慎司が見たい……。



「最後にもう一度だけ、キスしていい?」



ごめんね。


最後なんて言わせて。


まだまだ一緒にいたかった。


だけど……ごめん。


智輝の顔が浮かぶの。


こうやって慎司と穏やかに話せたのも彼があってこそ。


私は今にも零れ落ちそうな涙を浮かべ、言葉を必死に絞りだした。



「……イヤ」


「そっか、ごめんな」



抱き締める力が緩み、滲んだ視界で見つめると……


慎司の目にも涙が浮かんでいるように見えた。



「いつもみたいに言ってくれなきゃ」



今は笑って過ごしたい。


幸せだった昨日までの慎司でいて欲しい。


きっと、これが本当に最後。


忘れないよ、慎司。


あなたと過ごしたこの3ヶ月を。


最高に幸せだったこの時を。


フッと笑う声が聞こえ、耳元で囁かれた。



「……キスして欲しいって言ってみろよ?」


「慎司のキスが欲し……ッン……」



月明かりに照らされて、波の音にかき消されるような小さな音を立てながら、


最後のキスを交わした。


甘くて、切なくて、しょっぱい。


激しくて優しいキス。


私の頬に落ちた雫を、私はずっと忘れない……。




バイバイ、慎司。