【短編】愛トキドキ憎しみ

二人の間を擦り抜ける潮風。


波の音は一定のリズムで止まることなく響き渡る。



慎司は見上げていた顔をゆっくり私へと向けてきた。



「玲花はさ……」


「うん」



名前を言われただけなのに、それまで穏やかだった胸の鼓動が激しくなる。


私……やっぱり……。



「自分を飾らないんだよな。言いたいことはズバズバ言ってきたし。そんな玲花にどれだけ救われたか……」


「えっ? ……私何かしたっけ?」



慎司はフフッと嬉しそうに笑う。



「だから、そういうとこ。玲花は俺が欲しかった言葉を何気なくくれたんだ」


「例えば?」


「秘密……。だけどな、きっと初めて会った時から、そんな玲花に惹かれていたんだと思う」



「何か……ありがと」



気付けば私も自然と笑顔になっていた。


思っていた以上に私は慎司に愛されていたんだと思うと、嬉しい反面胸がチクンと痛みだす。


犯した過ちは消えない……。


どんなに消したくても消せないんだ。



「……玲花の存在が大きくなればなるほど、自分がしていることがバカみたいに思えて、女との縁をすべて切った」


「そうだったんだね……」



何て言葉を返していいのか分からず、相づちをうつだけ。


それだけで満足したかのように、私を見つめて微笑む。


その視線が愛しいものを見るように熱くて、私は慎司の目からそらせないでいた。


不思議だね……。


こんな風に穏やかに話ができるなんて。


こんな風に見つめ合うことができるなんて。