【短編】愛トキドキ憎しみ

話を聞いている間、お互い一切目を合わせなかった。


知らなかった事実。


今だから何とか受けとめられたんだと思う……。



慎司と千理はセフレだった……。


その関係は高校入学して半年ぐらいまで続いていたらしい。



「俺の外見しか見ないで寄ってくる女ばっかで。欲望に任せて女遊び激しかったんだ。付き合うとか大事にするとかどうでもよかった」



みんな同じ、慎司はそう言った。



「そういう付き合い方も悪くないって思ってたんだ。やりたい盛りだったし」



時々聞こえてくる慎司の小さなため息。


それが過去をひどく後悔しているように感じる。



「千理とは似たような境遇でな」



外見だけしか見ない、そんな周りに嫌気がさしてきた頃。


お互い肌で慰めあうようになったって……。



「お互いの気持ちが分かるだけに、一緒にいて楽だったんだ」



ポツリポツリと話してくれる慎司と千理の過去を、私はただ黙って聞いていた。



「俺と初めて会った時のこと覚えてる?」


「……えっ、と」



不意に問い掛けられ、昔の記憶を辿ってみるものの、頭に浮かばない。


一年の時もクラスが一緒だったから、入学式辺りなんだろうけど。


思い出せなくて小首を傾げると、横でプッと吹き出された。



「何よーっ!!」


「ハハッ、ごめんごめん。やっぱ覚えてないんだなって」



いつものように悪戯っぽく笑う慎司に、私は少し嬉しくなって微笑んだ。


浮気さえしなければ……


今も、明日も、明後日も……


こんな風にずっと、慎司と笑い合うことができたかもしれないのに。


そんなことを思った。