【短編】愛トキドキ憎しみ

「昨日見たんだ」


「何を?」



胡坐をかいて座っている慎司は夜空を見上げた。


その横で体操座りをして慎司の顔を見ていた私は、つられて夜空を見上げた。



「玲花から智輝に抱きつくところを」



……私が智輝に?


って昨日のあれ!?


慎司の気持ち聞いて浮かれていた時の。



「それは誤解だよ、そういう意味とかじゃなくて……えっと……」


「あぁ、智輝から聞いた。それに、今冷静になって考えれば分かることだよな」



そして一呼吸、間を置いた後、再び慎司は話し始めた。



「すぐに電話をしたんだけど出なくて……。抱きついた後も、少し顔を赤くして嬉しそうに智輝の隣にいるお前を見て思ったんだ。智輝のこと好きなんじゃないかって」



私はゴクリと唾を飲み込んだ。


昨日はそんな感情抱いてなかったんだけど。



「玲花がそんな器用なことできるわけないのにな」



慎司……。



「恋愛で駆け引きするようなやつじゃないし、一途だし、純粋だし……そんなとこに惚れたのにな」



ごめん……。



「けど、そんな女じゃないって吹き込まれて。信じてなかったんだけど、偶然にもあの現場を見て……」



手にした砂を拾い上げた慎司は、海の方へと勢い良く投げる。


波の音と砂の音が共鳴する。



「何かが崩れたんだ……好きで好きでたまらないからこそ、そんな些細なことが俺にとっては衝撃だったんだ」



夜の闇と慎司のか細い声がひどく不安を表す。



「裏切られていたんだと思って、玲花を信じずにその言葉を鵜呑みにしてしまった……」