【短編】愛トキドキ憎しみ

潮の香りに誘われるように足を進めていくと、昼間にいた海と砂浜が目に入ってきた。



「こんなに近かったんだ……」



私は再び同じ場所に立ってみた。


海に反射する三日月の光。


ユラユラと揺れる穏やかな波。


私はただ、ぼんやりと眺めていた……。



「玲花っ!!」



突然名前を呼ばれて振り向くと、真っ暗な闇の中に灰色の影が見えた。


ねぇ……心が震える。


一日とたっていないのに、とても懐かしく感じる声。


何でここにいるの?


……何で……何で。


目にはたくさんの涙が溢れてきて視界がぼやける。


動くことも喋ることもできずにいる私に、大きくて温かい腕が伸びてきて抱き寄せられた。



……慎……司。



そして、今までにないくらい力強く抱き締められていた。


苦しい……よ、慎司……。


体と胸がこの上なくきつく締め付けられる。



やっぱり好き。


ねぇ、愛しいよ……。



「ごめん……」



慎司はポツリと言葉を漏らした。


力強い腕とは対照的な弱々しい声に、私は何も言うことができず。


込み上げてくる涙さえ止めることができなかった。


ただ……長い間抱きしめられていた。



あんなに憎くて会いたくなくて、話しもしたくないって思っていたのに。


目の前にいるいつもと違う弱々しい慎司の姿に、そんな思いは薄れていた。


それに、私も浮気をしたから?


罪悪感からなのかな……。


何も言わない私を慎司はどう思っているんだろう。