【短編】愛トキドキ憎しみ

「んーっ! 泣くだけ泣いたらスッキリした〜!」



大きく背伸びをして、その場に立ち上がり智輝を見下ろす。



「智輝、肩ありがと!」



涙でぐしゃぐしゃになった顔を手で拭い、私は自然と笑いかけていた。


人前で泣くことが嫌いだった。


涙は女の武器――。


そう思われるのが嫌だったし。


すぐ泣く女なんて卑怯だと思っていた。


だけど……。


智輝の前で泣くだけ泣いて、ほんの少し心が軽くなった。


泣くことも必要なんだって、無理して笑う必要もないんだって。


智輝が教えてくれた気がする。



「やっぱ、私のお兄ちゃんになってー!」


「……遠慮しとくって」



苦笑いをして立ち上がった智輝は、タンスの中からハンカチを取り出して私に差し出す。



「顔ぐちゃぐちゃだよ?」


「うーっ、分かってるよー。にしても、智輝って几帳面だね。私でもハンカチ持ってないかも」


「クスッ。持っていたほうがいいよ」


「だよね、ハハッ」



涙が枯れたあと、部屋の中に笑い声が響き渡る。


私は一時の安らぎの時間を過ごしていた。


一瞬でも慎司のことを忘れて。



……あのメロディを聞くまでは。



携帯から流れてくる慎司からの着信音。



「でなくていいの?」


「……まだ、話したくない」



バックの中から聞こえる音に目を背ける。


こんなことしたってどうしようもないかもしれないのに。


ようやく音が鳴り止んだ後、隣からフーッと深いため息が聞こえてきた。



「確かにあいつらが悪いとは思うけど……、話だけでも聞いてやったら?」


「……だって」