「そんなこと、無いかも知れないですよ。
人生は、何が起こるか分からないものです。
君が今、殺人鬼に殺されそうになっていることもね。
予定なんてして無かった事だ。」


「········。」


「それに、君にはまだ価値がある。」


「······何の?」

男は怪訝そうな顔をしている。
段々殺人鬼の口調が変わってゆく。


「僕に殺される価値ですよ。
殺される、という事は、つまりは生きている、という事だ。」


「······。」


「君よりも最悪な落ちこぼれなんて、何人も殺してきてる。
君はその人達よりは立派なんじゃないかい?」


「生きようとしているじゃないですか。そこにある惣菜、ペットボトルのゴミ、君が飲んで食べた物の残骸だろう。」


「真の落ちこぼれは、自ら生きようとしない大馬鹿だ。ですよ。」



男は、光を失った眼球を、透明の液体で潤わせている。


「·····大馬鹿。それこそ俺だ·········。
死ぬことが怖いんだよ。
幾ら現実に失望したって。自分の努力が無駄になっていたって。蹴落されたって。

生きようとしているんじゃない。
──死ぬことが怖いだけの臆病者だ。」