「はぅ〜」

澪は力の無い溜め息を付く。



一体、朝1番のレースで大勝ちした奇跡は何だったのだろうか。

あのレースで当ててなかったら収支がマイナスだったところだ。



「あぅあぅ…」

澪は泣きそうな顔をして嵐の後ろを歩く。


「澪、お前なぁいい加減メソメソすんのやめろよな。」


「だってぇ…悔しいもん。」

澪は目を擦りながら言う。


「澪は確かに負け続けた。だが、なんだかんだで15万買って終われたじゃないか。勝負の世界じゃあな、+収支で終われたら勝ちって言われるんだよ。」

嵐は澪の頭を撫でる。


撫でられると心が落ち着いたのか澪は平静を取り戻しつつある。


「ところで嵐さんの収支は?毎回予想的中させていたから50万くらい勝った?」


「俺は三連複ばかりだから8万くらいしか勝ててないよ。たぶん今日あの場にいた客では澪が1番勝っているはずだ。」


「本当に?」と言わんばかりに澪は急に元気になる。


「ところでなんで嵐さんは三連複ばかりなの?嵐さんなら三連単でも予想的中しそうなのに。」


「勝ちのリズムを作る為さ。」


そう言ってポケットにあったタバコに火を付ける。

「三連単は約500通りの予想があるんだが三連複は約80通りなんだ。だから、三連複で配当の少ない予想をチビチビと当てて行ったのさ。」



澪は嵐の顔を見上げ、「へぇ」と声を出す。



「いきなり三連単ばかり狙いに行って連敗したら精神衛生上良くないからな。負け込むとな、なかなか上手く勝ちに繋げられない。そういうリズムを作りにくくなる。だから、まずは小金でも良いから当てて、リズムを作るのさ。」



澪は感心した顔で嵐を見る。

「嵐さん、意外と色々な事を考えているんだね。あたしじゃ出来ないや…。」


また、落ち込む澪。だが嵐は澪を元気付けようと言う。

「でもさ、澪は俺に出来ないことが出来るじゃん。料理に洗濯、他には金銭管理。それに澪は俺と違い真面目な雰囲気だからな。周りの人からの評判も良い。」


「そ、そんな事…。」

この時の澪は少し嬉しかった。今までこんなに褒められた事がなかったから。


「だかさ、気にすんなよ。俺は澪には無い能力があって、澪には俺に無い能力があるんだから。」


そう言い、嵐は澪の手を取る。


「今日は二人でギャンブルした記念日だ。町に出てお前の為に服買ってあげるよ。浴衣だけじゃあ、飽きるしな。俺が。」


そう言って嵐は澪と町で買い物をした。


(ありがと、嵐さん。あたしを元気付けてくれたんだね。)


澪は少し、嵐に感謝をした。