それはある日のことだった。


嵐がいつもの様に朝早く起きると珍しく澪が先に起きて朝食を作ってくれていた。


「珍しいな。澪が俺より早く起きているなんて。何を張り切ってんだ?」


何となくだが澪からやる気を感じる。

何のやる気かは分からないが、とにかく張り切っているのはよく分かった。


澪は財布から万札を出す。

「今日はこれを増やしに行くのだっー!」


「こら、テメーそれは俺が上げた小遣いだぞ。」

嵐は軽くキレる。

だが、この世界はギャンブルで全て解決する世界なのだ。お金を増やしにギャンブルしに行くのはごく当たり前の事である。

と言うか、これがギャンブラーの日常である。


「それで何をするんだ?競馬?パチンコ?」


澪は嵐にチラシを見せる。

「ここに行きたいなぁと思うんだけど…どうかな?」

「これは競輪か。」


競輪とは競馬の自転車版と考えてくれたら良い。

昔、死んだじいちゃんに競輪場に連れていかされた事があるが、当時は何が面白いのか分からなかった。


大人になって初めてその面白さに分かった。


まず第一に馬とは違い人間が自転車を漕ぐということ。

競技中の選手の深層心理の勉強になる。


第二に人間が自転車を漕ぐんだから人間の体調や心理がそのまま競技の結果になる。



選手の調子を予想して金を賭けれるということだ。



「つうか、お前は行ったことあんのか?」

「昔ね。死んだおじいちゃんに連れていかされた事があるんだ。それだけだけど。」



「…お前も俺と同じかよ。」

嵐は自分と同じく祖父に連れていかされた経験を持つ澪に少し共感した。


「『お前も』って嵐さんも?あたし達なんか同じだねっ。」