今しかない、この瞬間を

そんなこんなで浮かれているうちに、電車は次の駅に着いた。

乗り換え駅じゃないから降りる人は少なかったけど、さすがに耐えられなくなったのだろう。

彼がずっと睨みつけていた痴漢サラリーマンは、逃げるようにして電車を降りて行った。


これでもう本当に安心。

安心だけど、彼との恋人ごっこも終了してしまうのかと思うと、ちょっと残念だったりもする。


とは言え、ずっとこの状態でいる訳にもいかない。

まずは御礼を言わなくちゃと思い、顔を上げたら、彼は私を抱きしめていた腕をパッと解いた。


「やり過ぎだったかな?」

「え?」

「勘が良くて助かったよ。いきなり下手な芝居ふっかけちゃったけど、ノって来てくれなかったらどうしようかなって、内心ちょっとビビってたから。」

「あぁ、うん。最初は気が付かなくてビックリしたけど、途中で助けようとしてくれてるのわかったから、心強かった。ありがとう。」

「ホントは吊るし上げにしても良かったんだけど、これからも毎日同じ電車乗るのに、変に騒いで、逆恨みされても困るだろうと思ったからさ。」

「なるほど。すごい。そこまで考えてくれたんだ。本当に、本当に、ありがとう。」


彼は満足げに、ニコっと微笑んで見せた。

何だろう、この感じ。

彼の雰囲気にマッチしたヤンチャっぽい笑顔に、胸を撃ち抜かれた?

あっと言う間に、キュンキュンが止まらなくなっている。


「新しく入ったフロントの子でしょ?」

「あ、うん.......。」


あれ?

.......ってことは、同じ職場の人?

やった!!

じゃあ、これから一緒に働けるっていうことだよね.......