本宮くんと話すことなんてない。

あんなこと、もう二度と思い出したくない。

そう思ったら、足がすくんで、そこから一歩も動けなくなった。


隣家の塀に隠れ、俯く私を不審に思ったのだろう。

彼は本宮くんの姿を確認すると、私の顔を覗き込みながら、問いかけた。


「もしかして、あいつが元カレ?」

「.......うん。」

「やっぱり、会いたくないの?」

「できれば。」


関係のない彼を困らすのは、良くないことだってわかってる。

でも、今、ここから出て行ったら元宮くんに気付かれてしまう。

出て行ったところで、よっぽどの心構えがなければ、興奮して、まともに話すことなんてできないに決まってる。

ただでさえそうなんだから、酔いが回ってる今は、絶対無理!!


「招待状、あいつが持ってきたのかもしれないな。」

「.......。」

「何か、伝えたいことがあるんじゃない? じゃなきゃ、こんな時間まで待ってないだろ。」

「でも.......。」


憂鬱な気持ちが募って、泣きそうになる。

だけど、ダメ。

泣いたら、さっきまでの楽しい時間が台無しになってしまう。

第一、こんな重い女、鬱陶しいよね.......


唇を噛みしめ、必死で耐えていたら、彼の手が頭を優しく撫でた。

そして、そのまま、初めて会った日のように、ゆったりと私の身体を包み込んだ。


「わかった、ごめん。」

「.......。」

「じゃあさ、うち、行こっか。」

「.......え?」

「大丈夫、何にもしないから。とりあえず、もうちょっと一緒にいようか。」

「.......。」


そう囁いた後、彼が見せた笑顔は、あの日と同じ、すがりつきたくなるような温かさに溢れていた。

そしてそれは、頷くしかできない私に、思わぬラッキーが転がり込んだ瞬間だった.......