そんな自分の気持ちを再確認しつつ、初の二人飲みは終了した。

心のどこかで朱美さんを抱きしめていた彼の姿がチラついていたのも、不思議と途中からはあんまり気にならなくなった。


何故なら、そうだとしても簡単には諦められない。

例え思いが届かなくても、いつも隣にいる子供みたいな笑顔を、もっとそばで見ていたい。


前より強く、そう思っちゃったんだから仕方がない。

辛いことがあっても、頑張る覚悟を決めなくちゃ。


上機嫌でアシスタントの毅くんの話をしながら、笑い合っているうち、うちよりほんの少しだけ手前にある彼のアパートの外壁が見えて来た。

またすぐ会えるってわかってるのに、サヨナラするのが残念に思える。


「今日は楽しかったね。また行こう。」

「うん。じゃあ、今度は上山コーチのコイバナ、いっぱい聞いちゃおう。」

「え。マジ?」

「いいじゃ~ん。」

「わかった。じゃあ、いいよ。でも、有り過ぎて、朝までかかちゃうかもよ。」

「いいよぉ。」


あはははは.......って、この時までは、楽しい気持ちで満たされていた。

誰も知らない二人だけの時間が緩やかに流れていることが、とても嬉しかった。


だけど、細い道路を一本挟んだ所にある私のアパートの前に立っている人影が目に入った瞬間、その気持ちは一気に醒めやった。

だって、あれは、どう見ても本宮くんだ。

一度は愛していた人の姿を、間違うはずがない。


でも、なんで? どうして?

ここの場所を彼に教えた覚えはない。

だいたい、人にあんな思いをさせておいて、今さら、何だって言うのよ.......